長くて厳しい夏がなかなか終わりそうになかった今年、静かに読書できる秋がとても恋しく、「よ~し、2025年用カレンダーは『読書』をテーマに制作しよう」と考えた。さて関連する絵画を調べ始めたところ、数えきれないほど膨大な数の作品が後から後から現れてくる。「読む」という行為は読書以外に「手紙を読む、新聞を読む、看板を読む、能書きを読む」など、私たちの日常のなかで非常に重要な位置を占めているので、関連する作品数も非常に多いのだ。結局、情報の山に埋もれながらの大変楽しいカレンダー制作作業となった。読書愛好家の方々にも楽しんでほしいと思い、80点近くの作品を選んで短い動画を作ったので。最後に紹介する。


 さて、「読む」ことを描いた作品にはいかに多くの情報が詰まっているか、という例を以下に挙げてみようと思う。次の作品は、カレンダーには載せられなかった『訪問客』(1850年作品)という小品である。画面をクリックすると大きくなる。


a visitor Spitzweg

『訪問客』(1850年、カール・シュピッツヴェーク)


 こじんまりしたロフトに学者風の老人がすわっている。大きな本で何か調べものの最中なのだろうか、机の脇にも大きな書物が2冊立てかけられている。老人の視線の先、窓枠には訪問客、黒い鳥がいる。欧州でよく見られるクロウタドリである。非常に美しい声で歌うように鳴く鳥で、ビートルズの曲のタイトルになっている『ブラックバード』も、この鳥のことだ。クロウタドリは春の訪れを告げる鳥である。暖かい日差しが机の周囲を包んでいる一方、手前には畳んだばかりの傘が立てかけてあり、右後ろのハンガーには黒テンらしきコートもかかっている。ところでどういうわけか、画面中央の壁にかかっている肖像画の婦人らしき顔は、犬のように見える。画家のいたずらなのかもしれない。



 このように静かな画面の中になかなかの情報量を埋め込んでいる小品の作者は、カール・シュピッツヴェーク(1808-1885, Carl Spitzwerg)という、ドイツはバイエルン出身の画家である。ビーダーマイヤー様式(小市民様式)の画家に分類され、ウィーン体制下の人々の慎ましやかな日常を好んで描いた。他にも『本の虫』というよく知られた作品がある。


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『本の虫』(1850年、カール・シュピッツヴェーク)


 これから紹介する動画には、さまざまな時代の有名無名の画家たちが描いた「読む日常」の作品群をたっぷり詰め込んだので、堪能していただきたい。


 だがその前に、せっかく本を題材に記事を書いたので、筆者が今年読んだ書物のなかからお勧めの一冊を紹介しておく。

 ヴィンセント・ベヴァンス の『ジャカルタ・メソッド』(Vincent Bevins: The Jakarta Method, 2020)である。日本語訳も出ているが、原書も非常に読みやすい平易な英語で書かれているので、英文に慣れている方はそちらで読むほうが分かりやすいかもしれない。戦後世界の見方を変えてくれるすごい本だと思う。




👇本年の推薦本👇



👇日本語訳はこちら👇




では、「読むこと」をテーマにした絵画の数々を、音楽とともにどうぞ。


読書の風景:画家が繰り返し描いてきた静かな日常 (高画質1080pHD143秒。画面右下の▢で大画面になります。


  弊研究所制作の2025年カレンダーは以下でご購入ください。採用した絵画は12点で、見開きA3サイズになります。


2025年カレンダー:読書の風景
ヨハンナ比較文化研究所
2024-09-25

メルカリでも購入できます。