ロシアのウクライナ特殊作戦は、第二次大戦後における最大の軍事紛争かもしれない。西側諸国はロシアに対して幾重にも制裁を重ね、国際外交や情報戦で徹底的な攻撃を展開している。そのいっぽうでキーウ政権へは何兆ドルもの軍事援助が行なわれ、世界中から傭兵が集められる。西側諸国対ロシアの「第二次冷戦」ともいえるこの争いについて、「西側は前例のない本格的なハイブリッド戦争を仕掛けてきた」とセルゲイ・ラブロフは表明した。RT(ロシア・トゥデイ)の最新ドキュメンタリー、『非常事態シリーズ:ハイブリッド戦争』(Red Alert : Hybrid Warfare, 2023年7月23日公開)は、この複合戦争の全体像にせまろうとする。
退役米国海軍大佐で元ヴァージニア州上院議員でもあるリチャード・ブラックは、ヘリコプター操縦士としてヴェトナム戦争を経験した。軍人としての32年の経験と、政治家として20年の経験があるブラックは、対ロシア戦争が長年準備されてきた敵対政策の帰結だという。「これは正にハイブリッド戦争で、ウクライナは間違った方向に誘導されてきた」。では、ハイブリッド戦争とはどのようなものなのか。
ドネツク人民共和国の筆頭政治分析官であるアレクサンダー・カザコフは、情報戦と心理戦を駆使するハイブリッド戦争にラトヴィアで初めて遭遇した。「あそこで僕たちはロシア人の学校を援助していて、リガの映画館で父兄の会合をやったんだ。そしてラトヴィアの教育相を招いた。彼女は、”心配は要りません。あなた方の子供たちのために特別な教科書を作りますから”と言った。父兄は”おお!我々の子供のために!我々のトルストイで!”、と感激した。バルチック諸国のロシア人は古参のボルシェビキなんだが、ソーシャル・エンジニアリングで騙された後、ウクライナに利用された。彼らは元々は”反ウクライナ人”じゃなくて、”ウクライナに住むロシア人”だったのに、”ロシア系欧州人”という”別の国民”に仕立て上げられてしまった。ロシア人の若い世代だ。強制はされなかったが、なんと言うか、はめられたと言うか、エサで釣られて自分たちの歴史や文化を捨ててしまったんだ」。
NATIV(ユダヤ人連絡庁)の元長官だったヤコヴ・ケドミはソヴィエト連邦時代、ユダヤ人を無事にイスラエルに移住させることに力を注いできた。彼は戦いの軸はウクライナにはないと見る。「ロシアとの利害対立はなかったよ。ソヴィエト崩壊後の他の諸国ともだ。問題は外から持ち込まれた。実は米国とロシアとの対立があって、キーウはロシアを破壊するための道具にされたんだ」。
米国のカリフォルニア州サンタモニカには、ランド研究所(RAND Corporaton)という巨大なシンクタンクがある。スタッフを1,700人抱え、予算は3億5000万ドルにものぼる。研究内容は主に米国防総省と情報機関のためのもので、ほとんど秘密扱いだ。この研究所が2019年4月、「ロシアの軍事力は過度に拡大して均衡状態ではない」という報告書を出した。今日のロシアを冷戦時代の軍拡競争のコンセプトで分析した論調である。そして経済・地政学・イデオロギー・情報・軍事など、あらゆる分野でロシアが拡大しうると想定し、その危険性やともなうであろう犠牲を指摘した。この報告をもとにワシントンは中央アジアへのロシアの影響力を低下させることを提案し、カザフスタンでクーデターを計画し、ウクライナに対しては軍事援助を年々増やし続けた。国際ジャーナリストのヴィクター・サヴェンコフは言う。「彼らは南コーカサス、アルメニア、アゼルバイジャンでの紛争にロシアを引きずり込もうとした。彼らが言うところのベラルーシの”民主化”はクーデターだしね。こうして米国は一歩一歩、着実にハイブリッド戦争を進めてきたんだ」。
軍事専門家であるスコット・リッターは米国軍人の家庭に生まれ、ソヴィエト連邦を敵とする世界で育った。長じてからはアメリカ海兵隊に所属し、情報部員としてアフガン戦争等の分析をおこなった後、国連の特別調査官としてイラク戦争における大量破壊兵器武装解除の任務を遂行した。彼が言うには、「ランド研究所は2019年当時、米国安全保障体制にとって、ロシアを不安定化させる研究は必要不可欠だと考えていた。そこでプロジェクトを開始したんだが、政府の内部情報も必要になってくるから、プロジェクトは政治的方針として機能し始めたんだ」。
2022年2月にロシアの特殊作戦が始まって以降、西側諸国の政治家やメディアの口調は、「ロシアが一方的にウクライナに攻め込んできたのは国際法違反である。ウクライナは何も悪い事をやっていないんだから、ロシアは流血の惨事を正当化できない」、というスタンスで一貫している。だが、スコット・リッターの見解はちがう。
リッターは大学ではロシア史を学習し、ウクライナ語も習得している。元々諜報機関で働いた人間としての視点もある。「まず、2022年2月24日のロシアによるウクライナへの軍事介入は、西側が言うように”いわれなき侵略行為”ではない。ロシアは最低でも8年間、挑発され続けてきたんだ。さらに6年間さかのぼってもいい。ウクライナを招き入れるという計画をNATOが立てた2008年、後々ロシアが侵攻してくることは彼らにも想定できたはずだ。当時、駐ロシア米国大使だったウイリアム・バーンズも、”ウクライナがNATOに加入することはロシアの軍事侵攻を招くだろう”、と2008年4月の日記に書き記している」。冒頭に登場した米国人政治家、リチャード・ブラックも同意見である。「軍事紛争は2014年に始まった。MI6が仕組んだ暴力的な革命でヤヌコヴィッチが失脚し、ロシア語話者が住むドンバス地方とクリミアは独立を宣言した」(注1)。
(注1)正確にはドンバスの2州、ドネツクとルガンスクは当初は住民自治を要求していた。住民は反乱軍として武装蜂起したのではなく、まずアゾフ部隊やウクライナ軍の度重なる暴力から身を守るための武装自警団ができ、それが年月を経て統率のとれた解放軍になっていったようである。
米国国務副長官ヴィクトリア・ヌーランドは、軍事クーデターで誕生したキーウ政権を強く支持した。EU外相キャサリン・アシュトンをはじめとする欧州諸国の外相や大使以下、多数の外交官もヌーランドに続き、誰一人としてこれが国連憲章違反だとは言わなかった。だが、ロシアの指導者たちは2014年の事件を、西側による対ロシア・ハイブリッド戦争の最初の一歩だったと考えている。わずか数か月後より、キーウ新政権は戦車や戦闘機で東部に住む自国市民を攻撃し始める。市民戦争はこうして、キーウのハイブリッド戦争になっていった。
スコット・リッターが指摘するように、米国はユーゴスラビアやシリアでやってきたのと同じ手口でロシア弱体化をはかった。ランド研究所は、「ロシアが米国に対抗するうえで最も脆弱なのは燃料輸出に依存する経済構造である」と分析し、ロシアからEU諸国へのガス提供を減少させたうえで米国の燃料輸出を拡大し、経済の制裁を厳重に課すことができれば、ロシアは簡単に衰退すると見ていた。この分析が間違っていたことは現状を見てのとおりである。9次にわたる制裁を経てロシア経済は弱まるどころか、むしろ世界に足場を広げつつある。そもそもシリア内戦のときも、西側メディアは「プーチンはシリアに予備費をつぎ込んで使い果たした」というキャンペーンをはり、ジョージ・ソロスなどは「ロシアは2017年に破産する」と予言した。予測がはずれてロシア滅亡の兆しは見えないが、彼らは懲りない。今度はウクライナを媒体に希望的観測でハイブリッド戦争をしかけ、ロシア崩壊を夢見て失敗する。
虚偽の悪宣伝でターゲット国を悪者にしたてあげる、というのもハイブリッド戦争の常套手段だ。1990年、米国議会で行なわれた「ナイラ証言」が全くのでっちあげであった事は現在では広く知られているが、当時はこの少女の涙ながらの証言が世界中に反イラク感情を喚起する決定打となり、湾岸戦争へとつながっていった。今回のウクライナ紛争においても、同様の意図をもったでっちあげが繰返し行なわれている。中でも際立っているのがブーチャ事件である。事件発覚当時、国連は少なくとも50人の市民が殺されたと発表した。事件の映像はまずツイッター上に登場した。道端に累々と横たわる死体のわきを車ですり抜けながら撮影した映像が初めて公開された際、「死体が手を動かした」とか「起き上がった」、というチェックが入って騒ぎになったことを記憶している人も多いと思う。問題になったツイッター上のしくじり映像は即日回収され、今度は大手メディアの本格的キャンペーンが始まった。世界中に流される残酷な映像に人々は驚愕し、反ロシア感情は一気に沸点に達した。バイデンやボリス・ジョンソンを始めとする政治家たちも大々的にウクライナ支援を訴えた。ところがこの動きに疑義をはさむ独立系ジャーナリストや軍事専門家は、当初から少なからずいた(注2)。
(注2) 4月2日、ウクライナの報道は市内のあちこちの様子をとらえたビデオを7種類公開したが、その中では国務相も市民も誰も、虐殺についてはひと言も触れていない。これらの映像は後に削除された。
リチャード・ブラックは言う。「私は何千もの刑事事件を見てきた検察官だが、ブーチャの映像を見た時、腑に落ちなかった。車が通る脇のここに死体、あそこに死体、100フィートぐらい行くとまた死体だ。まず思ったのは、ロシア軍撤退からすでに4日も経っているのに、なぜまだ死体が見えるように道に横たわっているんだ。つまりウクライナ側で登録関係者が街に入って4日も経っているのに、なぜ死体がそのままさらされているんだ、という疑問だった。次におかしいのは、もしロシア軍が人々を危険分子だとかで殺す気だったら、一ヶ月ほど駐留して殺るはずだ」。
そして、殺された人々は皆、白い布を腕に巻いていた。ロシア支持者の印である。青い布を腕に巻いたウクライナ支持者は、死者の中には1人もいなかった。ロシア軍がロシア支持者を殺すというのは矛盾している。むしろ、ロシア撤退後に街に入ったウクライナ軍がロシア軍協力者を裏切者として制裁した、と考えるのが自然である。この点はブラックもリッターも同様に指摘している。これ以前にも、ウクライナの治安部隊がロシア支持の市民を殺してきたのは公然の事実だ。それに、ウクライナ・ナチのひとりが「青い腕章をしていない住民は殺してもいいか」と隊長に訊ね、承諾を得る動画まで残っている。
アレクサンダー・カザコフは説明する。「ブーチャの死体はチェス盤の上に横たわっているパターンなんだ。実に手がかりの見える話で、紛争の根本原因を探すヒントになっている。このレベルでのエピソードが他のすべてのレベルに影響するんだ。まずブーチャの事件の宣伝活動があって、次に我々は外交レベルで深刻なダメージを被って、そして最初は棄権していたいくつかの国が我々に反対票を入れ始める。このダメージは完全に情報によるものだ。経済的には、これのおかげで6回の制裁が可能になった。また、ウクライナに長距離兵器などの武器を供与する国々が出現し、戦闘の進展にも影響が出た。
このように悪意に満ちたプロパガンダがロシアに向けられている昨今、紛争の平和的解決は不可能に見える。いっぽう日常生活レベルでは、バンデラ主義者やウクライナ・ナチが人種差別や民族主義、優生思想に基くイデオロギーを形成し、ロシア人を虐殺し続けている。その残虐行為を正当化するために、キーウ政権にはロシア人を「悪魔化する」必要があった。つまり、イデオロギーに見合う物語として「ブーチャの虐殺」が演出された、というのがスコット・リッターの見方である。
「ウクライナで本当は過去に何があり、現在は何が起こっているのか」、ということを見極めるためには、歴史を踏まえた長いスパンでの注視が重要である。
このドキュメンタリーは以下で全編ご覧になれます。(ロシア語、英語。ロシア語には英語字幕付)
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https://rtdocumentary.online/series/red-alert/red-alert-hybrid-warfare/













