
読書(1877) アンリ・ファンタン=ラトゥール

読書(1870)アンリ・ファンタン=ラトゥール





ミケランジェロ・ブオナローティ(Michelangelo di Lodovico Buonarroti Simoni, 1475-1564)は、フィレンツェ共和国カプレーゼに生まれた。大理石採石場を経営する父の元で育ち、10歳代前半にすでに際立った画才を発揮していたミケランジェロが、成人してルネッサンス芸術を牽引する彫刻家として活躍することになるのは、無理のない成り行きだった。パトロンであったメディチ家の興隆と没落、ローマ教皇庁の庇護と代替わりなど紆余曲折があったにもかかわらず、突出した才能のおかげで大作の依頼が止むことはなかった。現存する作品群も『ダビデ像』や『ピエタ』、システィナ礼拝堂天井画および壁画、各地の礼拝堂建築など、どれもが傑作とされる。
今回はそんなミケランジェロの素描群から、特徴的なものを選び、『ミケランジェロ素描集』(A4判全カラー・32頁)にまとめてみた。その編集作業で多数の素描を眺めるうちに、職人として黙々と作業を続けるミケランジェロの姿が浮かび上がってくる。
長くて厳しい夏がなかなか終わりそうになかった今年、静かに読書できる秋がとても恋しく、「よ~し、2025年用カレンダーは『読書』をテーマに制作しよう」と考えた。さて関連する絵画を調べ始めたところ、数えきれないほど膨大な数の作品が後から後から現れてくる。「読む」という行為は読書以外に「手紙を読む、新聞を読む、看板を読む、能書きを読む」など、私たちの日常のなかで非常に重要な位置を占めているので、関連する作品数も非常に多いのだ。結局、情報の山に埋もれながらの大変楽しいカレンダー制作作業となった。読書愛好家の方々にも楽しんでほしいと思い、80点近くの作品を選んで短い動画を作ったので。最後に紹介する。
さて、「読む」ことを描いた作品にはいかに多くの情報が詰まっているか、という例を以下に挙げてみようと思う。次の作品は、カレンダーには載せられなかった『訪問客』(1850年作品)という小品である。画面をクリックすると大きくなる。
『訪問客』(1850年、カール・シュピッツヴェーク)
テネブリズムはロウソクなど単一の光源を使い、明暗のコントラストで主題を浮かび上がらせる画法。流派や様式を分類する概念ではないが、17世紀のイタリアやオランダで多くの画家に用いられた。代表的な作家としてカラヴァッジョやレンブラントが挙げられ、他にもこの技法を駆使した画家は地域や時代をこえて散在する。
『愉快な仲間』、1623年、ヘラルト・ファン・ホントホルスト作
溝口健二は1929年、大阪朝日新聞社からの依頼を受けて創立50周年記念無声映画、『朝日は輝く』を監督作成した。一見ドキュメンタリー風だが、実は脚本・俳優を使った宣伝用創作映画で、太秦で撮影されたモキュメンタリ―である。とはいえ大阪朝日新聞社印刷所の実写も大胆に挿入され、当時の輪転機や鋳型活字、植字工の働きぶりなど、非常に興味深い映像となっている。
残念なことに作品の大半は紛失してしまい、現存する25分ほどの無音リールも画像は決して鮮明とはいえないが、貴重な映像資料として取りあげることにした。以下に紹介するのは作品の一部分で、背景音楽は弊研究所が加えたものである。
スピード感あふれる迫力満点の画面からは、無声でもここまで魅せる溝口の底力を目の当たりにできる。1929年当時の映画製作水準はなかなか高かったのだ。また、「エイゼンシュテインを見ていたのか」と思わせるようなカメラワークもあるが、『戦艦ポチョムキン』等の作品は日本では1950年代まで封殺されていたそうだから、溝口は見ていなかったはずだ。その辺りの事情は研究者のほうが詳しいだろう。
原作:大阪朝日新聞
監督:伊奈精一、溝口健二
脚本:木村千疋男
撮影:横田達之、対島寅雄
出演者:中野英治、村田宏寿、沢蘭子、斎藤紫香
(他に土井平太郎、入江たか子などの出演記録が残っているが今回抜粋した部分には登場していないと思われる)
なお、この作品の今回取りあげなかった部分には、大陸に拡大していく日本の物資輸送の実写もふくまれている。日活の資料によると元作品は77分だそうで、現存しないのがまことに残念である。
👇溝口健二『朝日は輝く』より抜粋👇
(モノクロ無声・背景音楽は付加)
昭和初期の新聞はこうやって作られていた。溝口健二監督宣伝フィルム、『朝日は輝く』。 (29 Jun 2024、13分31秒、YouTubeより。画面右下の▢で大画面になります)
パリの下町を急ぎ足で歩く初老の女性。フランスパンの突き出した大きなバッグを手にアパートの狭い階段をのぼり始めるが、肥満気味で荒い息からかなり体調が悪そうである。すれ違う各階の住民から「こんにちは、マダム・ローザ」と声をかけられながら最上階にたどり着くと、小さな子供たちが駆け寄ってくる。ローザは近所の娼婦の子供たちをあずかって、生計を立てているのだ。
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米国は他国への執拗な経済制裁や恫喝、軍事介入などで、暴力的な正体をますます露にしてきている。だが実は、NGOのネットワークを使うという目立たない方法でも、世界を好きなようにコントロールしてきたという実態は案外、見逃されがちだ。このことを扱ったロシアの新しいドキュメンタリー、『NGOの敵対的乗っ取り』(2024年1月12日公開)を今回は取りあげる。
たとえばロシア連邦の場合、現存する数千のNGOのうち法務省に公式に登録されているのはわずか92団体で、他はほとんど米国政府と公的機関、もしくは米国の息のかかったNATOの傘下に作られたものである。ロシアの人権活動家の間ではおなじみのNED(全米民主主義基金)も米国政府が設立した基金で、以前はCIAが担っていた役割を引き継いでいる。法律家のイリヤ・レメスロは、NEDが中東やウクライナや南米の国々でカラー革命を組織してきたと指摘し、長年NEDのトップにいたカール・ガーシュマンも、「CIAがカラー革命に関与していることは秘密ではない」と認めている。
同様のNGO組織は他にも、NDI(国際民主党研究所)、IRI(国際共和党研究所)、ジョージ・ソロスのオープン・ソサエティ財団、カーネギー国際平和基金、モスクワ・ヘルシンキ・グループ、米国自由の家(US Freedom House)など、たくさん存在する。
以下に並ぶ記事は、クラシック音楽の世界で生じた不祥事の数々である。どれも非常に深刻な事件なのになぜか世間は忘れたがるので、備忘録として載せておく。主観的な注釈は避けるが、若い音大生たちは身の回りに腑に落ちないことが起こったら、必ず友人や信頼できる大人に相談すること。たいていのケースに余罪がある。
行動支配と感情的な虐待:クラシック音楽の教授法は壊れているのか?音楽学生が初めて語り始める経験(2023年7月11日、The Standard)
Controlling behaviour, emotional abuse – is classical music teaching broken?
Music students are speaking out about their experiences during their studies, many for the first time
Former music students accuse two Juilliard teachers of sexual misconduct
チータム音楽学校の性的虐待取り調べ:「広範囲の虐待」報告が30件以上(2013年5月8日、The Independent)
Chetham music school sex inquiry: More than 30 report 'widespread abuse'
39 teachers from several schools under investigation in relation to sexual abuse allegations
フランシス・アンドラーディ審問:性的虐待事件被害者のバイオリニストは「私が裁判にかけられている気分よ」と夫に語った(2014年7月7日、Manchester Evening News)
(※アンドラーディは権威ある聖歌隊指揮者に性的虐待を受けた過去を告白、裁判に訴えていた最中の2013年1月に自殺した。)
Musician had spiralled into 'incredible despair' over court case involving her pervert former music teacher Michael Brewer, hearing is told
『誰がカラヴァッジョを殺したのか?』は英国で大人気の美術史研究家、アンドリュー・グレアム=ディクソン(Andrew Graham-Dixon)が、ミケランジェロ・メリジ・ダ・カラヴァッジョ(Michelangelo Merisi da Caravaggio, 1571-1610)の死の謎にせまるBBCドキュメンタリー。
グレアム=ディクソンが最初に訪れるのは、カラヴァッジョ最期の場所と言われるトスカーナ州ポルト・エルコーレ(Porto Ercole, Tuscanny)の海岸。1610年7月のある日、39歳の画家は熱射病に倒れ、この砂浜のどこかで死を遂げたと言われている。だが今日にいたるまで葬儀の記録はなく、墓も記念碑もない。若くして名声を欲しいままにしていたカラヴァッジョにしては不自然である。彼は殺されたと推測する研究者も少なくない。
実はこれをさかのぼること4年、ローマで大画家として活躍していたカラヴァッジョは殺人罪で死刑を宣告され、逃亡してしまう。殺人犯を仇討ちする場合、首は誰がどこで切り落としても合法であったため、カラヴァッジョはまだ統一されていないイタリア各国を放浪し、逃亡生活を続けた。それでも絵を描くことだけは止めなかった。いやむしろ、多くの問題作をものにしている。グレアム=ディクソンは、この壮絶な人生がカラバッジョの絵画に光と影を投影し、西洋美術史上もっとも深淵で胸に迫る精神性をそなえた作品群が生まれたのだと言う。
テオドール・ジェリコー作の『メデューズ号の筏』は、ルーブル美術館常設展示作品の中でもとても人気があり、いつも人だかりができている。490x716㎝の巨大なキャンバスに描かれ、まことに激しい様相を呈するこの作品の趣向は、「時の政権が隠したい重大事件の記憶を芸術の世界に再現する」という大胆なもので、当時としては常識破りだった。そのため、デビューした1819年のサロンでは賛否の激しい論争が巻き起こり、結局、魂を注いだ油絵はお蔵入りとなってしまった。ルーブルがこの問題作を買い取って展示作品群に付け加えたのは、ジェリコー死後である。このたび弊研究所では、フランスの芸術サロンに逆風を巻き起こしたこの若き才能、ジェリコーの小品を集めた画集、『テオドール・ジェリコーの習作』を出版することとなった。
ジェリコーのデッサンの正確さとすぐれた構図、そして題材をとらえる鋭い視点は突出しており、鬼才として画壇の頂点に君臨することもできたはずなのだが32歳で夭逝してしまったため、完成された作品は非常に少ない。なんとも惜しいので、せめて残された習作群を日本に紹介しようと作業を始めたところ、膨大なデッサンやリトグラフに遭遇することになった。弊研究所で作成できる美術書はささやかなものだが、人生をまっとうできなかった天才画家の息吹きを伝えるべく、ジェリコー的な断片を可能なかぎり取り上げたつもりである。個々の作品については簡単な制作方法と年代以外、細かい解説は加えていないので、鑑賞者は先入観なしにジェリコーと対面し、彼の世界を楽しんでいただきたい。
現在、英国人口の4分の1におよぶ1500万人もの人々が、貧困ライン以下の生活を強いられている。失業率は3.8%という記録的な低さであるにもかかわらず、何百万人もの人々が働く貧困層であり、日々の支払いすらできないという状態なのだ。社会保障制度は崩壊していて、福利厚生はこの10年間で50%も削られている。その結果、社会の不平等は拡大し続けて戦後最大になり、公的援助を失った弱者は文字どおり痩せ衰えて死んでいく。こうした政府の無策を受けて、国中のあちこちに相互援助のコミュニティーが出現し、市民たちが自主的に支えあうようになった。DW(Deutsche Welle)制作のドキュメンタリー、『英国の貧困:なぜ何百万の英国人は無一文なのか』(Poverty in Britain: Why are millions of Brits so broke、2023年7月放映)は彼らの日常にカメラを持ち込み、感情移入を避けた語り口で淡々と紹介する。スープキッチンがあちこちにでき、心ある市民が支え合って生きる姿は今日の日本とも重なり、観る者に激しく訴えかけてくる。
David Cameron announces his resignation as Prime Minister in the wake of the UK vote on EU membership. (licensed under the United Kingdom Open Government Licence v3.0) ユニバーサル・クレジットを導入したデビッド・キャメロン首相(当時)
ロシアのウクライナ特殊作戦は、第二次大戦後における最大の軍事紛争かもしれない。西側諸国はロシアに対して幾重にも制裁を重ね、国際外交や情報戦で徹底的な攻撃を展開している。そのいっぽうでキーウ政権へは何兆ドルもの軍事援助が行なわれ、世界中から傭兵が集められる。西側諸国対ロシアの「第二次冷戦」ともいえるこの争いについて、「西側は前例のない本格的なハイブリッド戦争を仕掛けてきた」とセルゲイ・ラブロフは表明した。RT(ロシア・トゥデイ)の最新ドキュメンタリー、『非常事態シリーズ:ハイブリッド戦争』(Red Alert : Hybrid Warfare, 2023年7月23日公開)は、この複合戦争の全体像にせまろうとする。
退役米国海軍大佐で元ヴァージニア州上院議員でもあるリチャード・ブラックは、ヘリコプター操縦士としてヴェトナム戦争を経験した。軍人としての32年の経験と、政治家として20年の経験があるブラックは、対ロシア戦争が長年準備されてきた敵対政策の帰結だという。「これは正にハイブリッド戦争で、ウクライナは間違った方向に誘導されてきた」。では、ハイブリッド戦争とはどのようなものなのか。
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