ウテ・ボック(Ute Bock、1942-2018)は生涯にわたって難民を助け続けた稀有な女性である。元々ボックはウィーンの青年保護センターで教育者として働いていた。だが、周囲に多くの外国人が集まるようになり、いつしか難民に対する人道的援助に携わるようになる。さらに数々の制約に対処するため、『難民プロジェクト:ウテ・ボック』というNGO団体を設立。以来、難民が住める共同体を自費で運営し、駆け込んでくる難民に住居や食料を与えるのみならず、法的援助も行なった。100部屋を有する彼女のアパートには350人の難民が寝泊りし、1000人のホームレスが宛先住所として登録していた。NGOの資金は「Bock auf Bier」(「ビールが欲しい」ぐらいの意味。Bock Beerというビールの名前にかけている)という、ビールの代金の一部が寄付されるキャンペーンで支えられた。NGOの活動はボック亡き後も続いている。
映画、『ウテ・ボックの狂った世界』(Die verrückte Welt der Ute Bock、2010、監督はフッシャング・アッラフヤリ、Houchang Allahyari)はドキュメンタリーではない。かと言って、ドラマでもない。実在の人物や起こった事件を本人や関係者たちに再現させるが、その場面にカール・マルコヴィクスなどプロの役者も登場する。つまり、現実と虚構の境を越えた映画作りとなっている。
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