ヨハンナ比較文化研究所
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ヨーロッパ

ドキュメンタリー『NGOの敵対的乗っ取り』:ロシア内反体制を育てる西側組織の実態

 米国は他国への執拗な経済制裁や恫喝、軍事介入などで、暴力的な正体をますます露にしてきている。だが実は、NGOのネットワークを使うという目立たない方法でも、世界を好きなようにコントロールしてきたという実態は案外、見逃されがちだ。このことを扱ったロシアの新しいドキュメンタリー、『NGOの敵対的乗っ取り』(2024年1月12日公開)を今回は取りあげる。

 

 たとえばロシア連邦の場合、現存する数千のNGOのうち法務省に公式に登録されているのはわずか92団体で、他はほとんど米国政府と公的機関、もしくは米国の息のかかったNATOの傘下に作られたものである。ロシアの人権活動家の間ではおなじみのNED(全米民主主義基金)も米国政府が設立した基金で、以前はCIAが担っていた役割を引き継いでいる。法律家のイリヤ・レメスロは、NED中東やウクライナや南米の国々でカラー革命を組織してきたと指摘し、長年NEDのトップにいたカール・ガーシュマンも、「CIAがカラー革命に関与していることは秘密ではない」と認めている。

 

 同様のNGO組織は他にも、NDI(国際民主党研究所)、IRI(国際共和党研究所)、ジョージ・ソロスのオープン・ソサエティ財団、カーネギー国際平和基金、モスクワ・ヘルシンキ・グループ、米国自由の家(US Freedom House)など、たくさん存在する。

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『英国の貧困:なぜ何百万の英国人は無一文なのか』2023年ドキュメンタリー

 現在、英国人口の4分の1におよぶ1500万人もの人々が、貧困ライン以下の生活を強いられている。失業率は3.8%という記録的な低さであるにもかかわらず、何百万人もの人々が働く貧困層であり、日々の支払いすらできないという状態なのだ。社会保障制度は崩壊していて、福利厚生はこの10年間で50%も削られている。その結果、社会の不平等は拡大し続けて戦後最大になり、公的援助を失った弱者は文字どおり痩せ衰えて死んでいく。こうした政府の無策を受けて、国中のあちこちに相互援助のコミュニティーが出現し、市民たちが自主的に支えあうようになった。DWDeutsche Welle制作のドキュメンタリー、『英国の貧困:なぜ何百万の英国人は無一文なのか』(Poverty in Britain: Why are millions of Brits so broke、2023年7月放映)は彼らの日常にカメラを持ち込み、感情移入を避けた語り口で淡々と紹介する。スープキッチンがあちこちにでき、心ある市民が支え合って生きる姿は今日の日本とも重なり、観る者に激しく訴えかけてくる。
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David Cameron announces his resignation as Prime Minister in the wake of the UK vote on EU membership. (licensed under the United Kingdom Open Government Licence v3.0ユニバーサル・クレジットを導入したデビッド・キャメロン首相(当時)

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『非常事態シリーズ:ハイブリッド戦争』ロシア包囲網に関するドキュメンタリー

 ロシアのウクライナ特殊作戦は、第二次大戦後における最大の軍事紛争かもしれない。西側諸国はロシアに対して幾重にも制裁を重ね、国際外交や情報戦で徹底的な攻撃を展開している。そのいっぽうでキーウ政権へは何兆ドルもの軍事援助が行なわれ、世界中から傭兵が集められる。西側諸国対ロシアの「第二次冷戦」ともいえるこの争いについて、「西側は前例のない本格的なハイブリッド戦争を仕掛けてきた」とセルゲイ・ラブロフは表明した。RT(ロシア・トゥデイ)の最新ドキュメンタリー、『非常事態シリーズ:ハイブリッド戦争』(Red Alert : Hybrid Warfare, 2023年7月23日公開)は、この複合戦争の全体像にせまろうとする。


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ヴィクトリア・ヌーランドとペトロ・ポロシェンコ 

 

 退役米国海軍大佐で元ヴァージニア州上院議員でもあるリチャード・ブラックは、ヘリコプター操縦士としてヴェトナム戦争を経験した。軍人としての32年の経験と、政治家として20年の経験があるブラックは、対ロシア戦争が長年準備されてきた敵対政策の帰結だという。「これは正にハイブリッド戦争で、ウクライナは間違った方向に誘導されてきた」。では、ハイブリッド戦争とはどのようなものなのか。

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『ハーケンクロイツの下のクラシック』:過酷な運命を生きぬいたチェリストのドキュメンタリー

 2022年DW(ドイチェ・ヴェレ)制作のドキュメンタリー、『ハーケンクロイツの下のクラシック』(Klassik unterm Hakenkreuz/Music under the Swastika, a.k.a. Music in Nazi Germany)は、「どうしてドイツ中の音楽家が一夜にしてナチスの協力者に変質することができたのだろうか」、という問いへの答えを生き証人との対話から導き出そうと試みる静かな作品である。

 

 ナチスが台頭し始めた時代にクラシック音楽界の頂点にいた指揮者に、ヴィルヘルム・フルトヴェングラー(Wilhelm Furtwängler)がいる。1886年ベルリン生まれのヴィルヘルムは天才肌で、20歳ですでに交響楽団の指揮をしていた。当時のドイツではクラシック音楽のみならず、ジャズや現代音楽なども豊かに花咲いていたのだが、国民社会主義が権力を握った1933年以降、状況がまったく変わってしまった。ヒトラーは「国民音楽」なるものを打ち出し、「音楽が情緒および感性の形成に非常に大きな力を持つことは疑いのないことである。だが音楽は我々を感動させても、知的満足には程遠い」と述べ、音楽の選別粛清を始めた。街頭でもコンサートホールでも暴力をともなう規制が行なわれたため、多くの音楽家は早々にドイツを去っていった。


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Wilhelm Furtwängler

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ドキュメンタリー『戦車は腎臓のために:ウクライナにおける臓器移植闇市場』

 今回も前回に引き続いてRTドキュメンタリー・チャンネルから、5月24日に公開された『戦車は腎臓のために:ウクライナにおける臓器移植闇市場』(Tanks for kidneys. "Black transplantology" in Ukraine)を紹介する。

 

 2021年12月16日、ウクライナ国会は5831号修正案(注1)を採択した。これは子供を含むウクライナ人の死後臓器移植を、家族の同意なしに行なえることを規定したものである。特別なクリニックを介したら、臓器を国外に売ることもできる。さらに2022年4月14日、5610号修正案(注2)が採択された。これによって臓器移植に関わる付加価値税が免除され、ウクライナ人の臓器を海外に輸出することが合法になった。軍事作戦のさ中に施行された上記法案によって、死者の臓器を親族の同意なしに取り出すことが可能になり、豊富に存在する臓器が医師や葬儀屋の承諾だけで摘出されるようになった。国内の病院や刑務所をはじめ、軍組織や孤児院などからも臓器は自由に提供される。

 

(注1)Amendments to Ukraine Laws Regulating Transplantation of Anatomical Materials to Humans

(注2)Amendments to Ukraine’s Criminal Procedure Code to Improve Enforcement of Tasks in Criminal Preoceedings

 

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『ベルリンからマイダンまで:80年をふり返る』最新ドキュメンタリー

 今回は、RTドキュメンタリー・チャンネルで5月8日に放映されたばかりの作品、『ベルリンからマイダンまで:80年を振り返る』(From Berlin to Maidan : 80 years on — is Nazism gaining notoriety in Ukraine?)を紹介する。史上最大の犠牲者を出したといわれる大祖国戦争(独ソ戦)は、ドンバスでも戦われた。80年後の今日、その地で歴史をふり返りながら生きる人々に取材し、過去と現在を比較考察するドキュメンタリーである。


 マリウポリから100kmほど東に進み、ロシア連邦ロストフ州西端に入ると、サムベク高地戦勝記念公園(мемориал славы на Самбекских высотах)という第2次世界大戦記念公園がある。そこの巨大なモニュメントの前に静かに立つのは、ミウス戦線調査協会会長で歴史学者でもあるアンドレイ・クドゥリャコフ。「大祖国戦争の兵士たちは皆、ここに眠るべきなのに、名前が確認できている者が非常に少ないのは残念だ。でも私はそのひとりひとりについて語ることができる。自分で掘りおこしたからね」。大きな大理石の墓標の下には、80年前にこの地域で戦死した兵士たちの遺骨が埋葬されているのだが、まだ数千人の骨が発掘されておらず、地道な作業が続いている。
(注:文中の小見出しは筆者がつけたもので、ドキュメンタリー映画の中にはない)

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サムベク高地戦勝記念公園(мемориал славы на Самбекских высотах)


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「ロシア文化殺しの思想」を問う最新ドキュメンタリー、『対ロシア・キャンセル・カルチャー』

 20222月にロシアが特殊作戦を開始して以来、ロシアの文学や音楽を排除するおろかな動きがまたたく間に西側世界に広がった。ナチス・ドイツがユダヤ系の音楽家や文学者を否定したのと全く同じ論理を、熱病にかかったかのように実践する人々に囲まれて暮らすのは、たいへん恐ろしいことである。だが、この子供じみたルソフォビア現象を、当のロシア人はどう体験し、どのように解釈しているのだろうか。その辺の事情を当事者たちに取材した短編ドキュメンタリー、『ロシア文化殺し』㊟がオンライン公開されているので紹介したい。

㊟映画はロシア語版と英語版の2種類が公開されていて、それぞれのタイトルはКультура отмены РоссииKilling Russian Culture。ロシア語から直訳すると「ロシア文化の排斥(キャンセル)」、英語からだと「ロシア文化を殺すこと」になる。オンライン公開はロシア語版が2022年53日、英語版は同52日。上映時間は 2733秒。


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ドキュメンタリー『台無しのヨーロッパ:裏目に出たロシア制裁』

 ロシア・トゥデイ制作の最新ドキュメンタリー、『台無しのヨーロッパ』*Евросоюз: в петле санкцийEurope Undone2023125日公開)は、ロシアに対する制裁が関係国の人々にどんな影響を与えているかを取材した、30分足らずの短編ドキュメンタリーである。制裁の失敗が深刻な人災になっている様子が鑑賞できるので、紹介する。


*ロシア語原題(Евросоюз: в петле санкций) は日本語にすると『欧州連合:制裁ループの中で』


 「私たちの繁栄はロシアからの安いエネルギーで成り立っている」。冒頭、欧州連合外務安全保障政策高官代表ジョゼップ・ボレルの発言である。この前提条件がウクライナ紛争で吹っ飛んでしまった。だから政治家たちは、強気で勝負に挑まなくてはならない。「都会でも地方でも大衆の不満には対処する」。「大丈夫だ、ロシアのガスを安い価格でまた購入できるから。プーチンも望んでいることだしね」、と議会で発言するのはオランダ首相のマーク・ルッテ。だが現実はそう上手くはいってない。市民はルッテの等身大の立て看板に生卵を投げつけて、怒りを露わにしている。

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ソビエト体制を批判したブルガーコフのSF小説『犬の心臓』の映画化(1988)

 ミハイル・ブルガーコフ(1891-1940)は、ロシア帝国下のキエフ(今のキーウ)に生まれた。両親はともにロシア人で、父親はキエフ神学アカデミーの教授、母親は教師という家庭だった。ミハイルは医学部卒業後、ロシアの農村で働き始め、内戦時代には白軍・赤軍双方に医者として従軍したが、重篤なチフスを患った後、作家となる。

 1925年に一部が発表された自伝的小説『白衛軍』は好評を得て、舞台劇にもなった。ところが続いて発表した『運命の卵』(1925)と『犬の心臓』(1925)というSF小説が、どちらも共産主義革命を批判する内容であったため、発禁処分となる。その後、ブルガーコフの作品は、『巨匠とマルガリータ』を含めてほぼ全て、闇に葬られた。60年以上におよぶ封印を経た1988年、『犬の心臓』はペレストロイカに揺れるソビエトのテレビ局によって命を吹きかえした。ドラマ映画としてソビエト中に放映されたのである。今回はこの作品を取りあげる(注1)。

注1:『犬の心臓』は出版する前に検閲で発禁処分となり、原稿は没収された。その後、1960年代に英国とドイツで出版されている。映画化はソビエト連邦に先立って1976年、イタリアで実現している。タイトルは『Cuore di cane』で主演はマックス・フォン・シドー。こちらはソビエト版より軽いノリの喜劇になっている。ソビエト版テレビ映画のロシア語タイトルは『Собачье сердце(英語版では『Heart of a Dog』)、1988年Ленфильм制作、Владимир Бортко監督、モノクロ2時間16分。おそらく2回に分けて放送されたと思われる。

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ミハイル・ブルガーコフ
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ドキュメンタリー『ドンバスの子供たち:砲火の下で育つこと』(2022)

 『ドンバスの子供たち』(Донбасс. Дети、Children of Donbass : Growing up under Ukrainian artillery fire)は今年9月に放映され、今はロシア語版と英語版がインターネット上で公開されている。非常に辛いドキュメンタリーだが、ひとりでも多くの人に観てもらいたいので、紹介する。


 この8年間、ドンバスでは毎日、ウクライナからの砲撃で子供たちが命の危険にさらされている。まだ小学生ぐらいの子供たちが次々と証言する:「ウクライナ人が私たちを撃ってくるの。私は足を撃たれたわ。跡が残ってる」、「僕たちは我慢したり死んだりしたんだけれど、彼らは勝つまで止めないんだ」、「毎日、バンバンバンって。とにかく大きなバン、バン!」。遊んでいる子供たちをめがけて砲弾が降ってくるのだ。この恐ろしい状態に慣れてしまった子供たちは爆撃音を聞き分けて、「今度はあまり遠くないな」、などと距離を判断する。そして地下室に逃げ込む。

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続、ハンナ・アーレントってどうよ?ヤコブ・ロゾウィックの批判書、『ヒトラーの官僚たち:ナチ秘密警察と凡庸な悪』

 ヤコブ・ロゾウィック(Yaacov Lozowick)は著書、『ヒトラーの官僚たち:ナチ秘密警察と凡庸な悪』(2000で、「アドルフ・アイヒマンはハンナ・アーレントが指摘したように無自覚な官僚だったのか」、ということを歴史学者の立場から検証した(注)。ナチス・ドイツにおけるアイヒマンの役割を分析したもので、文体も簡潔で、専門書というよりはむしろ一般の読者を想定した良書である。だが、アーレントを真向から批判したためか、評論家たちからはほとんど無視されてしまった。映画『肯定と否定』で注目を浴びた歴史学者、デボラ・リップシュタッツもその著書、『アイヒマン裁判』(2011、The Eichmann Trial)でアーレントを批判したが、こちらはそれが中心テーマではなかったため、多くの批評家たちはそこに深入りせずに論評した。そんな事情を考えながら、ロゾヴィックが解体したアイヒマンについて考えてみる。 

(注)Yaacov Lozowick, Hitler’s Bürokraten: Eichmann, seine willigen Vollstrecker und die Banalität des Bösen、2000。英語版は Hitler's Bureaucrats: The Nazi Security Police and the Banality of Evil

ヤコブ・ロゾウィックはドイツ生まれの歴史家。イスラエル国立公文書館で公文書研究の責任者を務めた。

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【速報】ドンバス地域で住民投票が始まった

ドンバス、ヘルソン、ザポロージェで記録的人数の市民が投票所に列をなして集まっている。みんな「この日を待っていたの」、「ロシアになって安全に暮らしたい」と言っている。(ロシア語英語字幕付き)

Record number of Donbas, Kherson & Zaporozhye citizens vote on referendum on uniting with Russia! (24 Sept 2022、4分37秒、Odyseeより。画面右下の▢で大画面になります)



こちらはおなじみグレアム・フィリップス。9月23日の住民投票をルガンスク現地で取材。投票用紙に記した「Да(賛成)」をフィリップスに堂々と見せる住民たちの顔がみんな喜びに満ちている。
Donbass - Referendum Moments!!! (Lugansk, LNR - today!! ) (24 Sept 2022、5分0秒、Rumbleより。画面右下の▢で大画面になります)


パトリック・ランカスターもヘルソンから取材。「元のロシアに帰るんだ」という住民の強い意思表示の他、解放以降の医療保健制度や投票準備に携わった人々の様子も取材。

Referendums To Join Russia Start In Ukraine

(24 Sept 2022、30分05秒、Youtubeより。画面右下の▢で大画面になります)

『冷戦:マーシャル・プラン』(1998) CNNドキュメンタリー

 第二次世界大戦が終わり、ヨーロッパは貧困にあえいでいた。失業と空腹に苦しむ庶民の多くは、「社会正義を実現するには共産主義しかない」と考えるようになり、共産党員は200万人にふくれ上がっていった。これに恐れをいだいた米国は1947年、大胆な対抗策を講じる。マーシャル・プランである。今回紹介するドキュメンタリーは、冷戦期の欧州経済復興と米国の政策を振り返って分析するもので、CNNが1998年から翌年にかけて放映した24回TVシリーズ、『冷戦』の第3回目にあたる。

 

 欧州諸国のなかでも、戦後も共産党と中道右派との間で内戦が続くギリシアの荒廃は深刻だった。英米は中道右派を経済援助していたのだが、英国は自国の経済が怪しくなったため、支援から撤退せざるを得なくなった。ギリシアからドミノ倒しで欧州諸国が共産化してしまうことを恐れ米国大統領、ハリー・トルーマンは1947年2月、非常に大胆な政策を連邦議会で発表する。いわゆるトルーマン・ドクトリンである。「自由世界の人々は、その自由を維持するために我々の支援を必要としている。もし我々が主導することをためらえば、世界の平和を危険にさらすことになり、また、我が国の繁栄をも危険にさらすことになるのである。従って私は連邦議会に、ギリシアとトルコに1948年6月30日までの期間、4億ドルの援助を提供することを要請する」。こうして、自由対独裁、西側対共産主義の闘いという二項対立が初めて登場した。

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ジョージ・マーシャル

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続・ウクライナについての小さな情報(続報あり)

 ウクライナの紛争について参考になる記事や動画を3月にまとめたが、その後もさらにあふれんばかりの情報が入ってくる。とりあえず続編をこちらにまとめておく。少し煩雑になってしまったが、ドンバスや欧州諸国、米国などの動きについて多角的に考える参考になればと思う。主に英語の情報を選んだが、その他の言語のものには英語字幕がついている。

【ウクライナ:普通にナチズム】
(ロシア語英語字幕埋込み)
Ukraine:Ordinary Nazism(7 Apr. 2022、52分22秒、Youtubeより。画面右下の▢で大画面になります)

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『苦悶のウクライナ:隠された戦争』(2015)ドイツ人ジャーナリストの見たドンバス

  「このドキュメンタリー(Ukrainian Agony:The concealed war)はドイツ人ジャーナリストの個人的経験によるものであり、彼の身に起こった出来事を反映している。ほとんどの映像は2014年7月以降に撮影されたものである......時は2014年9月4日、午後9時12分。場所は南東ウクライナ、ロシア国境から13マイル」という白い字幕が真っ黒な画面に映し出される。全く視覚の効かない暗闇から、激しいマシンガンの銃撃音が聞こえてくる。弾丸の飛びかう鋭い音が耳元で響く中、戦闘員がロシア語で叫び合っている。そして、「暗すぎて見えないな」というドイツ語の低いつぶやき。暗闇での死の恐怖を音だけで感じさせる映画の導入部だ。

 

 監督のマーク・バータルマイ(Mark Bartalmai)は、それまでも戦場を取材してきたジャーナリストだが、あの夜ほど身の危険を感じたことはない。気が付いたら彼のクルーは最前線にいたのだ。兵士運搬用装甲車から振り落とされそうになったバータルマイは、カメラを両手にかかえて飛び降りる。200メートルほど先に、炎が巨大な壁になっているのが見えた。


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ドネツク国際空港の廃墟

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『死せる魂』(1984)ゴーゴリの社会風刺小説を映画化

 ここのところ、ウクライナ南東部のヘルソンという地域でのロシアとウクライナの戦闘がよくニュースになっている。人口調査によると、この地域では76.4%がウクライナ人で20.0%がロシア人と自認している一方、ロシア語人口は45.3%にのぼる。つまり自覚的ウクライナ人でもロシア語をしゃべっている割合がかなり多いのだ。歴史的事情によると思われるが、実はこの土地が登場するロシア文学の古典がある。ニコライ・ゴーゴリ(1809-1852)の『死せる魂』である。世界中のロシア文学好きに人気がある作品で、これまでに何度も映画化されており、今回はその中から1984年ソヴィエト版TVシリーズ(5話:6時間28分)を取りあげる。監督はミハイル・シュバイツェルで、主人公のチチコフを演じるのはアレクサンドル・トロフィモフ。ロシア内戦時代における映画界の混乱を描いたドラマ映画、『愛の奴隷』(1976年、ニキータ・ミハルコフ監督)でも好演している癖の強い俳優である。ヘルソン州が登場するのは種明かしに近い後半部分なので、今しばらく辛抱を。


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映画からの低解像度スクリーンショット

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『ウクライナのファシストがなぜ問題なのか』今さら訊けないウクライナ・ネオナチの起源を専門の歴史学者が徹底的に解説

 レバノン出身のジャーナリストであるラニア・キャレク(Rania Khalek)が、ドイツ出身で現在はイスタンブールの大学で教鞭をとっている歴史学者、タリク・シリル・アマー(Tarik Cyril Amar)にインタビュー。4月6日に公開された録画では、ウクライナの極右について、その起源から現在までをソヴィエトやロシア、ドイツとの関わりも含めてかみ砕いて説明してくれる。あいにく要約を書く時間がないので、とりあえず動画だけを紹介したい。英語で1時間44分と少し長いが非常に面白い内容で、飽きずに見ることができる。動画の下に目次の日本語訳を添える。なお、Youtubeの自動字幕はあまり正確でない。


The Origins of Ukraine’s Fascists & Why It Matters, w/ Historian Tarik Cyril Amar (Youtubeより。画面右下の▢で大画面になります)

 

0:00 イントロ

2:48 ウクライナ右翼民族主義の起源

5:03 ソヴィエト時代のウクライナ

8:32 第2次大戦におけるウクライナ人のナチとの協力

14:27 ソヴィエト崩壊後のウクライナ

16:43 ソヴィエト後の右翼民族主義と歴史修正主義

21:23 ウクライナ極右の役割

27:50 米国はウクライナのネオナチを武装化しているか

33:44 アゾフ部隊の軍への浸透

38:21 メディアがナチを洗脳

49:48 2014年クーデターが極右台頭に貢献

58:30 極右のゼレンスキーへの脅し

1:06:26 グローバルな極右にとっては恩恵

1:11:07 ロシアを裏切ったNATOの約束

1:19:55 プーチンに代案はあったか?

1:25:46 さらに軍備増強したドイツと欧州の脅威

1:39:51 Tarik Cyril Amar博士についてもっと知りたい人は

 

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『ウテ・ボックの狂った世界』(2010)ウィーンで難民の側に立つ

 ウテ・ボック(Ute Bock、1942-2018)は生涯にわたって難民を助け続けた稀有な女性である。元々ボックはウィーンの青年保護センターで教育者として働いていた。だが、周囲に多くの外国人が集まるようになり、いつしか難民に対する人道的援助に携わるようになる。さらに数々の制約に対処するため、『難民プロジェクト:ウテ・ボック』というNGO団体を設立。以来、難民が住める共同体を自費で運営し、駆け込んでくる難民に住居や食料を与えるのみならず、法的援助も行なった。100部屋を有する彼女のアパートには350人の難民が寝泊りし、1000人のホームレスが宛先住所として登録していた。NGOの資金は「Bock auf Bier」(「ビールが欲しい」ぐらいの意味。Bock Beerというビールの名前にかけている)という、ビールの代金の一部が寄付されるキャンペーンで支えられた。NGOの活動はボック亡き後も続いている。

 

 映画、『ウテ・ボックの狂った世界』(Die verrückte Welt der Ute Bock、2010、監督はフッシャング・アッラフヤリ、Houchang Allahyari)はドキュメンタリーではない。かと言って、ドラマでもない。実在の人物や起こった事件を本人や関係者たちに再現させるが、その場面にカール・マルコヴィクスなどプロの役者も登場する。つまり、現実と虚構の境を越えた映画作りとなっている。

1024px-Bock_for_President,_Audimax,_31.10.2009_(4)Houchang Allahyari (l.) mit Ute Bock und seinem Sohn Tom-Dariusch Allahyari bei der Vorpremiere von Bock for President (Viennale 2009)

 Attribution-ShareAlike 3.0 Unported (CC BY-SA 3.0)

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ウクライナについての小さな情報(続報あり)

ウクライナvsロシア紛争が続いている。とても心配な情勢だが、ゼレンスキーがチェルカッシ&オデッサの局長にウクライナ右翼国粋主義集団Aidar Battalion指揮官だったマルシェンコ(Maksym Marchenko)を指名したという報道を受けて、ほんのちょっと前までの現代史がわかる映像を臨時で紹介する。ほんとうに心配だ。物騒な記事なので、紛争がおさまれば回収したい。

《TIME:2021年1月9日報道》ウクライナの白人至上主義武装組織の内情(取材は2019年夏に行なわれたもので、米国報道陣ははるか以前から知っていたという事になる) 
Inside A White Supremacist Militia in Ukraine(TIME、8分12秒、Youtubeより。画面右下の▢で大画面になります)続きを読む

『ムーラー:ある裁判の解剖学』ナチス犯罪を裁く困難を描いたオーストリア映画

 1963年、オーストリア第2の都市であるグラーツで、あるナチス犯罪人に対する裁判が始まった。被告の名はフランツ・ムーラー、元オーストリア・ナチス親衛隊曹長である。彼はナチス・ドイツ占領下のリトアニアにおいて、ヴィリニュス・ゲットーのユダヤ人を多数殺害し、「ヴィルナの屠殺人」と呼ばれた(ヴィルナはヴィリニュスのドイツ語読み。ここでは以下、ヴィルナ表記に統一する)。ヴィルナに住んでいた8万人のユダヤ人の中で、戦後まで生き延びることができたのはわずか600人である。

 

 ナチス政権が崩壊した後の1947年、オーストリア南部の村に隠れ住んでいたところを発見されたムーラーは、当時リトアニアを統括していたソヴィエトの裁判でソヴィエト市民殺害の罪により有罪になり、25年の苦役に服役していた。ところが1955年、オーストリア国家条約の締結で捕虜を釈放することになったため、ムーラーも解放された。この時、オーストリア政府は国外での収監1年を国内での5年に換算し、ムーラーは刑期を終えたことになった。

 

 いっぽう当時、アイヒマンの行方を探していたサイモン・ヴィーゼンタールは、オーストリアの農場にそれらしい人物が偽名で暮らしているという情報を得る。調査した結果、それはフランツ・ムーラーだった。こうして、グラーツに証人を集めてのムーラー裁判が始まった。

Paneriai monument 3
upyernoz from Haverford, USA, CC BY 2.0,
via Wikimedia Commons
ポナリーのユダヤ人犠牲者の碑続きを読む


今週の拾い読み

【沖縄】
  • 女性専用の避難場所、県内は3市町村のみ 災害時の安全対策に遅れ 琉球新報が自治体に防災アンケート <国際女性デー2024>(琉球新報)
  • 沖縄の男女平等度、経済は1位から5位に転落 2024年の「都道府県版ジェンダー・ギャップ」 政治は低迷し28位(沖縄タイムス)
  • 沖縄タイムス辺野古・高江取材班 @times_henoko


  • ****************
    【昨日のオンライン拾い読み】はこちら
    ****************

    【資料・長文記事】NED(全米民主主義基金)に関するファクトシート(中華人民共和国外交部、2022年5月7日) Fact Sheet on the National Endowment for Democracy (Ministry of Foreign Affairs of the People’s Republic of China)


    🎦『ヤジと民主主義』
    👉日程等はこちらの公式サイトで
    予告編(1分30秒、Youtubeより。画面右下の▢で大画面になります)

    【「人間の大地で、今」50回シリーズ】命を守る「難民認定」と「在留特別許可」外国人の長期収容・送還問題を考える(日本カトリック難民移住移動者委員会) https://www.jcarm.com/resources/terre-des-homme/

  • ドキュメンタリー『牛久』予告編👇👇https://www.ushikufilm.com/

  • 勝手におすすめジャーナリスト

    Richard Medhurst(リチャード・メドハースト,ジャーナリスト)

    勝手におすすめビデオ

    ドキュメンタリー「フツーの仕事がしたい」2008年作品、監督:土屋トカチ、70分カラー

    勝手におすすめサイト

    早稲田大学・水島朝穂のホームページ
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    記事検索
    【ウィシュマさん国賠名古屋地裁2024年】
     11回目2月21日14:30
     12回目5月22日1:30
    以下は大阪地裁2024年
    【大阪入管17人閉込め事件】
     1月30日13:15@809法廷
     **************


    ※以前はナチスが絶対悪だったけど今は米国が取って代わった。で、日本はいつも邪悪な方と手を組むダサい奴。

    ※国民皆保険で私たちは「税金」として健康保険料を払っているのに保険証を寄こさないというのは詐欺の匂いがする。何を企んでいるのだろうか。

    日独韓伊の米軍基地


    《国会オンライン中継録画》
    ◎衆議院インターネット審議中継

    ◎参議院インターネット審議中継


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    戦争の彼方
    ¥1650(税込)


    ウィーンへの帰還
    ¥1650(税込)


    赤いオーケストラ
    ¥1650(税込)


    革命の内側¥1650(税込)

    当研究所制作の美術書

    テオドール・ジェリコーの習作
    ¥1650(税込)


    モーティマー・メンペス作品選Ⅱ:ブルターニュ
    ¥1210(税込)


    モーティマー・メンペス作品選:日本と世界と戦争と
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